福岡高等裁判所 昭和24年(ネ)380号 判決
原判決添付目録(一)及び(二)に対する控訴は、これを却下する。
同目録(三)に対する控訴は、これを棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
二、控訴の趣旨
控訴代理人は「原判決を次のように変更する。被控訴会社は原判決書添付目録(一)記載の各人員に対して各その名下の金員を、同目録(二)記載の各人員に対して各その名下の金員を、同目録(三)記載の各人員に対して各その名下の金員を、夫々本判決書が被控訴会社に送達された日の翌日から五日内に支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴会社の負担とする。」との判決を求めた。
被控訴代理人はまず訴訟上の抗弁として控訴却下の判決を求め、その理由として控訴は第一審判決の主文に包含された不利益な部分に対してのみこれをなすことができるのであるが、本件では訴訟費用の負担を命ぜられた部分のみが不利益な部分である。
然るに控訴人は第一審判決の主文に包含しない申請棄却の部分に対しても控訴申立をしており、且つ訴訟費用の裁判のみについては独立して控訴することはできないから本件控訴はこの点で不適法として却下せらるべきものであると述べ、次に右抗弁が理由がないとすれば、控訴棄却の判決を求めると述べた。
三、事 実
当事者双方の事実上の陳述は
控訴代理人において
(一) 被控訴会社は昭和二十四年二月十六日に組合の同一性を否認すると同時に労働協約の無効を宣言し、当時組合の要求した賃金その他の交渉について中央協議会を開くことになつていたのに中央協議会は協約と同時に消滅したから今後これを開かないと通告し、且つ中央協議会では労資共三十名宛の団体交渉になつていたのを右と共に拒否し、三、四名以上の団体交渉には一切応じないと通告した。而も被控訴会社は自分勝手な労働協約案を結ぶことを先決問題だと主張して来た。すなわち労働協約第六十一条の平和条項の前提である中央協議会そのものを被控訴会社が否認したのでこれを守ることが不可能となつた。それでも控訴人の方はその日から一か月間は隠忍し一か月を経てから鬪争宣言を発し争議に入つたのである。次に休日並びに超過労働協定は期限が同年三月二十日までであつたが同月三日に被控訴会社はこれが無効を宣言した。然し控訴人は同月二十一日から新な協約ができず無協約になるまではこの趣旨を履行したが無協約となり労働基準法により休日並びに超過労働ができないことになつたのでこれをしなかつたまででこれは別に争議行為ではない。争議行為というのは業務の正常な運営を阻害することであるが、労働基準法に違反し処罰を受くるような運営をすることは正常なものではないから労働基準法を守ることは争議ではない。又休日並びに超過労働の協定を結ぶことは被控訴会社が労働協約を認めこれを履行しない限り、控訴人の義務ではない。被控訴会社は右協定は協約と関係なく労働基準法に基くと力説しているが、労働基準法ではこれを結ぶ義務を労働組合に課していないことは明白であつて、それを結ぶことを拒否するのは控訴人の自由で何等争議行為ではない。(二)本件工場閉鎖は不当で被控訴会社の責任に帰すべきものであり、且つ已むを得なかつたものではない。すなわち被控訴会社がその非を悟つて協約を五月三十一日まで履行するという言明をするだけで一切の争議は解決し工場閉鎖はその必要なきに至つたのである。少くとも香春工場ではそうであつた。而も当時労働協約が有効なことについては全国各地の裁判所の判決又は決定が出ており、労働委員会の意見も一定しており、これを疑うことは殆ど常識では考えられないところであつた。(三)次に仮処分の必要について附言すると昭和二十四年七月十七日に同年六月二十九日から十五日分の賃金(六割)の支給のあつたのは同年六月二十五日に大量解雇があつたのを香春工場長に対し解雇撤囘を要請したところ、同工場長は一応これを保留し上京の上十三日帰任してこれが囘答(一部解雇、一部保留)をしたのでその間の給料(六割)を支払つたものである。控訴組合員としては右期間内の最低生活費に充当せられ本件工場閉鎖中の赤字の穴埋には全くなつていない。又立上り資金及び協力奨励金は当時長期の賃金不払のため従業員は着ている服も入質しており出勤すら困難であつたので労働委員会の勧告で出したものでそれは単に出勤できる最少限度の準備金に過ぎない。又それは昭和二十四年六月一日以降同月二十八日までの工場閉鎖期間の給料の半額にも相当しないもので同期間内の最低生活費の穴埋に充当せられ五月分並びに五月三十一日までの本件請求金不払に基く赤字の穴埋には全くなつていない、その上右立上り資金も被控訴会社は昭和二十五年二月以降に返還せよと要求している。又組合専従者はかかる金員を全然受取つていない。なお既に本訴も提起したが本訴は相当の期間を要する見込であり控訴組合員は借金の穴埋に追われている状態である。と述べ、
被控訴代理人において、(一)控訴人は被控訴会社が突然昭和二十四年二月十六日に組合の同一性を否認し一切の交渉に応じない旨を通告したことが今次争議の発端であるかの如く主張するも、右は事実を誣いるの甚だしいものである。控訴人を含む被控訴会社の各単位組合及び日本セメント労働組合連合会は昭和二十三年五月の連合会全国大会を契機として窮極において産業破壞を目的とする戦術の一つとして被控訴会社の経理の実情を無視した無謀な賃上要求を追討的に――甚だしきは旬日を措かず――被控訴会社に強要し、その間平和義務違反の不法争議行為を以つて要求貫徹を計り今次の大争議に至るまで殆ど紛議の絶え間がなかつたのである。昭和二十四年二月十五日の連合会解散同十六日の日本セメント労働組合の結成も実にこれ等一連の連合会側の鬪争方式の現われの一つに外ならなかつたものである。これを詳述すれば、これより先き昭和二十四年一月二十七日に連合会はその直前確認した賃金スライド率協定を一擲し且つ従来実施して来た生産奨励金の拒否を通告し、被控訴会社の賃金体系を根本的に変革する産別式の二四〇〇カロリー基準理論生計費に基く最低賃金制(一人平均税込一万七千円)の確立を要求して来たのであるが、これに対して二月二十二、三の両日臨時中央協議会を開催審議することに決定したにもかかわらず中央協議会開催を目前に控えて前述の通り二月十五日に連合会は全国大会を開き解散を決議し、十六日に単一組合を組織した。これは各単位労働組合並びに連合会を解散し全国的単一組合を組織することにより各単位組合の自主性を喪失せしめて中央集権を行い、かねて企図している全国的争議行為の指導権を強化するためこの挙に出たものであり、その戦術上の狙いとしては名目的には各支部の争議行為は単一労働組合内の極小部分の争議行為に過ぎないかの如き印象を外部に与えながらその実全国的且組織的に被控訴会社の経営機能を麻痺せしめんとするにあつたことはその後の争議行為の実際の示すところである。被控訴会社としては将に重大なる臨時中央協議会開催の直前連合会がかかる処置を採るに至つた真意奈辺にあるや多大の疑義を持つに至つたのでこの点に関する組合の明確なる囘答を求めたところ、組合は単に名称の変更に過ぎずと頗る瞹昧な囘答をなすのみであつた。そこで被控訴会社は連合会規約と単一組合規約を比較検討したところ両者はその組織構成において著しく性格を異にし最早同一人格と認むるを得ざるに至つたので連合会との間に締結した労働協約は一方当事者の消滅により失効したものとの結論に達したのでその旨を組合側に通告し、至急新組合との協約の締結を申入れたのである。然るに組合は飽くまで解散の事実を隠蔽し、単に名称の変更のみであると弁明し、被控訴会社の申入に対しては一顧も与えなかつたが、将に賃金問題に関する臨時中央協議会が開催されんとした矢先、単なる名称変更のみのため全国大会を開催してまで各単位組合と連合会を解散し全国的単一組合を組織する必要があつたか甚だ疑問の存するところである。労働組合が名称規約を変更することは組合内部において自主的に決定さるべきものであることは当然のことなるも、規約の変更により労働組合の機構性格を異にするような場合変更前に第三者との間に生じた対外的法律行為(就中双務契約)がその儘変更後の労働組合に対しても当然承継されるということは、法律上首肯し得ないところである。殊に規約の変更については労働組合が一方的になし他方に通告の義務さえないのにかかわらず、これに容喙し得ない法律行為の相手方たる経営者が法律行為当時の権利義務の帰属者とはその範囲を異にするような組合(単一組合においては連合会と異なり従業員に非ざる者でも組合員たり得る)につき相手方の恣意の儘義務を一方的に負わされることは明らかに衡平の原則に反する、従つて被控訴会社が日本セメント労働組合連合会との間に締結した労働協約は連合会並びに各単位組合が解散して日本セメント労働組合という単一組合が結成されたことにより消滅したものとして日本セメント労働組合と新協約の締結を要求したことは当然である。被控訴会社としては労働協約が失効した以上、協約に基く中央協議会を開催することは不可能なるも団体交渉は被控訴会社より再三申入れ事態の平和的解決に努力したのである。然るに組合側は多衆を以つて押かけ制止をも肯かず社長室に侵入又は居据り戦術に出で業務妨害をなす等の暴挙を敢えてするに至つた。かくする中に組合側は二月二十七日に中央鬪争委員会を設置し鬪争態勢を採り三月十七日に鬪争宣言を発し実力行使により要求を貫徹する旨を声明した。然れどもそれより以前既に西多摩工場においては解散問題の起らざる一月十六日以来日曜一齊休業という協約違反の悪質なる争議行為を敢行し、香春工場においては三月五日に超過勤務拒否という争議行為を実行するに至つた。その後三月十七日の鬪争宣言以後は日曜一齊休業、二十四時間スト、各職場における怠業等一連の争議行為を波状的に実施し、工場経営を不能に陥れたため会社経営の破綻を防止するため已むなくその対抗主段として工場閉鎖を断行するに至つたものである。(二)控訴人は休日並びに超過勤務拒否は労働基準法に準拠して採つた行為であつて争議行為ではない旨主張しているが、仮りに控訴人主張の如く休日並びに超過勤務拒否が基準法に則つた行為であるとしても要求貫徹のための手段として業務の通常の運営を阻害する行為は総べて争議行為であることは明瞭である。且つ又、組合幹部自身東京地方裁判所における解雇の効力停止仮処分事件の審尋又は東京都労働委員会における審問においては今次争議において、日曜出勤拒否、超過勤務拒否、二十四時間スト等の争議行為を指導して会社に甚大なる打撃を与えたことが解雇の理由であると言明していることからしても組合自身争議行為として休日並びに超過勤務拒否を行つたことが明白である。セメント工業において超過勤務及び休日出勤拒否が争議行為でない旨を主張することは、セメント工業の特殊性を解せざる暴論にしてその裏には争議のためには産業の破壞を招来するも意としないという危険なる思想を包蔵するものである。過去において超過勤務休日出勤を行わなかつたことが被控訴会社は勿論同業各社においても一度でもあつたであろうか。又現在では被控訴会社においては、労働協約は無協約状態になつているが全工場共超過勤務を実施して生産に協力している実情から見ても当時組合が休日並びに超過勤務拒否を行つたことは、争議手段として実施したものであることが明白である。(三)控訴人は今次の被控訴会社が控訴人の悪質なる一連の争議行為に対して自衞上最後の手段として工場閉鎖を断行するに至つたことを非難し、真に已むを得ざる処置に非ず被控訴会社がその非を悟つて協約を五月三十一日まで履行すると言明すれば一切の争議は解決したと主張するも、協約の有効無効に関する争は五月三十一日が到来すれば一方よりの通告により効力を失うことは明らかであり今次争議における一派生事実に過ぎず、寧ろ真の原因は組合の決議文によつても明らかな如く企業の破壞を狙い延いては我が国の全産業の壊滅を狙つた政治鬪争の一手段であつたもので協約の有効無効の争のみが総べての原因をなすものではない。従つてこれがため今次の争議が発展したものであると判断するのは真に争議の実情を把握したものではない。その由つて来たる処は、一昨年五月の日本セメント労働組合連合会の全国大会において一部急進分子が組合の主動権を掌握するに至つて以来会社の経理の実情を無視し無理な要求を強要することにより会社経理を破滅に導き延いては企業自体を破壊せんと計画した企図がその原因なのである。(四)被控訴会社が控訴人の悪質極まる争議行為に対してその対抗手段として断乎工場閉鎖を行うに至つた事情は、要するに被控訴会社の如き生産を使命とする生産会社にとつて争議手段としても工場閉鎖を行うが如きは致命的のもので何を好んでかかる処置を積極的に採ることがあろうか。今囘の被控訴会社の処置は組合側の無暴極まる争議行為而もこの儘放置すれば工場の全機能は麻痺し将来の復旧は殆ど不可能となるに立至るので最後の防衞手段として採つたものでこの間の賃金支払義務が免除されることは当然のことである。争議行為である以上控訴人もそこに犠牲の伴うことは当然で相手方を傷けるのみで自己は何等の犠牲をも受けまいと企図し、自らの出血を相手方の犠牲において補おうとしたり、又その責任を相手方のみに帰せしめようとすることは、争議行為の何たるかの本質を理解しない卑劣なる考え方より出発するものといわねばならない。争議行為は、いわば両刄の剣で出血の伴うのは当然のことである。(五)被控訴会社が組合事務専従者の給与を昭和二十四年三月以来廃止するに至つた根拠に関しては、原審において詳細に陳述したところであるが、控訴人は恰も右専従者給与が当然の権利であるかの如く当審においても主張しているが、抑々専従者給与制はノーワーク・ノーペイの原則が雇傭契約法の基本であることに照らし如何に奇形的な不合理なものであるかは明白なことで真に控訴人が労働組合精神に徹しているならば、労働組合の自主性確立のため自ら辞退すべき筈のものである。然るに自ら悪質なる争議行為を指導して被控訴会社に甚大なる損害を与えながらその争議行為中の給与を当然の権利として請求するその厚顏無恥には驚くの外はない。と述べた外は、いずれも原判決書当該摘示事実と同一であるからここにこれを引用する。
(疎明省略)
四、理 由
まず被控訴会社の訴訟上の抗弁について判断する。
控訴は第一審判決に対し不服の利益を有する者からなす不服の申立であり、その不服の利益の存否はその者の第一審における請求が第一審判決の主文において全部又は一部が排斥されたか否かによつて決すべきものであり、又仮処分申請事件においては裁判所は申請の趣旨の範囲内においては申請人の申立に拘束せらるることなくその自由なる意見に従い仮処分の目的を達成するに必要なる処分を命ずることができるのであるから一個の申請については判決主文に申請の趣旨と符合しない部分があつてもその部分については通常の事件と異なり判決主文中において特に一部排斥の旨を示す必要がなく又これを示さないのが一般の慣例である。而して本件において原判決主文を検討すると原判決書添付目録(三)の申請についての判断の結果を示したに止まり同目録(一)及び(二)の申請は(三)の申請と何等の関係なく独立した個々の被保全請求権に基くものであることは、申請の趣旨及びその理由に徴して明白であるから右(一)及び(二)の申請については、裁判を脱漏したるものと認むべく、從つて該部分に関する訴訟は依然原裁判所に係属しているものといわなければならない。さればこの部分に対する控訴は未だその対象たる原判決が存在しないのであるから不適法として却下すべきであつて、この部分に対する被控訴会社の抗弁は理由がある。ところが同目録(三)の申請についても原判決はその一部のみを認定しその余の部分に対する判断の結果を主文に掲げていないけれども(三)の申請は元来夫々一個の被保全請求に基くものであるから前段の理由により認容しなかつた部分について特にその排斥を宣言する必要はないのであるが若し申請人が第一審判決の仮処分命令が申請の趣旨に副わざる場合において、これを相当ならずとしてより有利な命令を求めんと欲する場合においては、通常の事件と同様に控訴の提起により第一審判決の仮処分命令を変更する趣旨の申立をなすことができるものと解するのが相当である。従つて右(三)の部分に対する控訴は適法であると認むべきであるからこの部分に対する被控訴会社の抗弁はこれを採用しない。
よつて控訴組合の前記目録(三)についての申請の当否について判断する。
同目録(三)記載の各組合事務専従者に対するその各名下の三月乃至五月分及び六月分の給与を被控訴会社が支払つていないことは当事者間に争がない。
而して成立に争のない甲第一号証によれば、労働協約第七条において「被控訴会社は専従者に対し基本給その他一切の給与等について不利な取扱をしない」旨を定めていることが明らかであるから右協約の有効期間内(成立に争のない乙第五十二号証、同第五十五号証、同第五十六号証、甲第二号証、同第三十九乃至第四十一号証によれば本件労働協約はその一方の当事者たる日本セメント労働組合連合会が日本セメント労働組合の単一組合にその内部組織を変化し、その構成分子等に多少の相違があるにせよ、実質上の労働組合としての同一性には何等変更が生じていないものと認められるから単一組合との間においてもその有効期間内は、なお依然としてその効力を有するものというべくその期間は昭和二十四年五月三十一日まで延長されていることが疎明される。)は被控訴会社は専従者に対しても他の組合員に対すると同様の給与を支払わなければならないものというべきである。尤も当裁判所でその成立を認める乙第四十号証、同第四十一号証、成立に争のない乙第五十一号証の二によれば専従者の給与については昭和二十四年二月二日に発せられた「労働組合の資格審査基準について」の労働次官通牒において「主たる経費を使用者の保護に仰ぐ組合は労働組合とは認められない、組合事務専従職員に対する賃金給料その他如何なる形態におけるを問わず支払われる金銭その他の給与は労働組合法第二条但書第二号の主たる経費の補助に該当する」と明示され、更にその後同年三月九日に発せられた同件名の同次官通牒によつて「主たる経費を使用者から補助を受けることの禁止は資格審査基準の示すところにより労使が自主的にこれを行うよう勧告し、直ちに実施し得る組合についてはその規約協約等の改訂等その具体的措置を速に取運ぶこととし、全国的組合であつて準備的措置を要するものについては適当の期間(最長概ね九十日を超えないのが適当と考えられる)を設定しその間に審査基準の要請に沿うような措置をとることを勧告すること」との指示がなされ、又同月三日に福岡県労働部長の各労政事務所長宛の通達によれば組合専従職員に対する給料は関係方面よりも昭和二十四年三月十五日を期して廃止するよう強く左記の如きすなわち(一)使用者は三月十五日を期して現に組合専従者に給付している給料を廃止すること。(二)右給付について使用者と組合間の契約又は協約等がなされていてもこれは労働組合法第二条但書第二号に該当するものであるからその部分については無効と認められる。(三)組合が右期限を過ぎなお使用者より金員の支給を受けているときは、同条但書に該当するものとして組合資格を否認せられる結果となるやも知れない。(四)使用者は、これが廃止につき組合側との連絡調整を画り遺憾のないよう措置すること。との示唆があり、右の主旨により指導すべき旨指令されたことが疎明される。
而して被控訴会社は右通牒通達等の趣旨に則つて三月分以降の専従者に対する援助を廃止したものでこれは会社が廃止の申入を行つた以上協約改訂等の具体的手続をすることを要しないと主張するけれども右通牒通達の趣旨は前記のような事実のある組合は、自主的な労働組合とはいえないので現下の社会経済事情に鑑み一定の猶予期間を置きその間に組合は使用者に対し自発的にかかる給与の受領を辞退するか又は労使双方の協定によつてかかる給与を廃止すべきことを指示勧告するにあつて、相当の期間を経過するもなお依然としてかかる給与を受くることを廃止しない組合は、労働組合法に準拠する労働組合たる資格を否認され、従つてこれに基く団体交渉権労働協約締結権争議権等法律によつて認められ保障されている一切の権利も亦これを保有し得なくなるという趣旨であつて、直ちにかかる協約自体を無効とするものではないと解するのを相当とし、成立に争ない甲第十号証当裁判所においてその成立を認める甲第四十五号証、乙第四十二号証及び当審証人米丸貞夫の証言を総合すれば、控訴組合においては、福岡県労働部長の前記通達について同部長に尋ねたところ、全国的な組織を持つ組合には適用がなく日本セメント労働組合の場合はこれに該るから三月九日から九十日の猶予期間内(六月九日まで)に協約が成立するように労使間において取決めよとの指示を受けたので被控訴会社に交渉したが被控訴会社は話合に応ぜず一方的に同年三月分以降の専従者に対する給与を廃止する旨申入れたが控訴組合においてこれに応じなかつたところ、その支給を停止したことが疎明される。而して控訴組合は本件において、前記の如く専従者に対する未払給与の支払を請求しているから自発的に右給与の支給を辞退していないことが明らかであり、又組合と会社間にこれに関する協定の成立していないことは、双方の主張自体から認められるところであるから協約の有効期間内は協約に従い被控訴会社は専従者に対しても亦他の組合員に対すると同様に給与を支給すべき義務があるものといわなければならない。そこでその数額を認定する必要上一応今次争議について判断することとする。
控訴組合が中央の指令に基いて昭和二十四年三月十七日に鬪争宣言を発し、同月二十五日、三十一日及び四月二十一日の三囘にわたり二十四時間ストを行い又三月二十七日及び四月二十四日の日曜出勤並びに時間外労働を拒否したこと、被控訴会社香春工場が同年三月二十六日及び四月二十三日に臨時休業をなし、同月二十五日から作業所閉鎖をしたことは当事者間に争がない。
よつてまず右作業所閉鎖が違法であつたかどうかの点について検討する。
成立に争のない甲第二十三号証の一、二、同第二十七号証、同第二十八号証の一及び三、乙第二十四号証の一乃至三、同第二十五号証、同第五十二号証、当裁判所においてその成立を認める甲第四十六号証、原審証人笹原忠義の証言及び同証言によりその成立を認め得る甲第二十六号証、同第二十八号証の二、原審証人赤司新作、原審及び当審証人米丸貞夫、当審証人黒沢肇の各証言を総合すれば、被控訴会社は昭和二十三年五月以降従業員の賃金についてスライデング・システムを採用していたところ、同会社の各事業場の単位組合を以つて組織する日本セメント労働組合連合会は、その後引続き被控訴会社の経理の実情に副わない賃金値上の要求を追討的になし、賃金に関する両者の紛争は絶え間なく、同年十二月五日に第五次賃金スライドの件地域給に関する件労働協約改訂の件等について団体交渉の結果漸く妥結した矢先き西多摩工場の地域給に関して紛争が生じたので専門委員会を設けて検討することとし、同年十二月十六日に専門委員会において右地域給について審議したが妥結せず、遂に同工場の組合は昭和二十四年一月十四日に鬪争声明を発して同月十六日の日曜出勤一齊拒否の戦術に出たが、その後連合会から被控訴会社に対し尨大なる最低賃金制確立の要求を提出したので会社としては事が重大であり到底賃金専門委員会において解決し得ないことであるから労働協約に基く中央協議会において協議することとし、同年二月二十二日にその協議会が開催されることになつていたところ、これに先立ち右連合会は鬪争態制強化のため同月十五日に開かれた全国大会において従来の単位組合を夫々支部とする単一組合たる日本セメント労働組合に改組したのでこれを契機として被控訴会社は両者を以つてその組織性格構成分子等に著しき相違があるとなし別個の人格と認め従来連合会との間に締結され同年五月三十一日までその効力が延長されていた労働協約は失効した、従つて単一組合との間に新協約が締結されない限り、旧協約に基く中央協議会を開催することはできないと主張するに至り同月二十二日の中央協議会は開催不能となりここに被控訴会社と組合との間に協約の効力の存否について重大なる意見の対立を生ずるに至つた。そこで会社は賃金問題解決のため速に新な労働協約を締結して中央協議会を開催し緊急問題の早期解決をなさんと欲し、組合に対し団体交渉を申入れ同月二十六日に第一囘の交渉を試みようとしたが、当日は組合側多数の者が会議中の社長室に制止をも肯ぜず侵入し、又再三要求を受けながらその場所を退去せざる等の措置に出たため会社は組合に対し八・九名の代表者によるに非されば団体交渉に応じ難いと主張し、遂に具体的内容についての交渉に至らず、更に会社から同月二十八日に代表者五・六名による団体交渉を申入れたるも同日は組合において応ぜず、組合も三月一日に、会社も同月二日に夫々団体交渉開催の申入をなし、同月二日に第三囘の団体交渉を試みたが、会社は飽くまで組合の同一性を否認し、新協約案を提示し新協約の締結が先決問題であると主張して讓らず、従来の協約を無効と認める以上これに基く日曜出勤並びに時間外労働に関する協定も亦無効に帰するも已むを得ずとなし、遂に物別れとなりその後も組合においては、協約の有効無効は暫く措き暫定的にも協約の線に副つて交渉に応じて貰いたいと申入れたが、会社は依然として前記の態度を堅持するのみであり、組合は新協約案は到底応じ得ない苛酷なものであるとして遂に両者の団体交渉は妥結するに至らなかつた。
他方控訴組合においても同年三月三日に香春工場側と日曜出勤並びに時間外労働協定に関する交渉を開いたが工場側も亦本社の意見に同調して讓らなかつたため控訴組合は同月五日の日曜日から日曜出勤を拒否するに至つた。ところが組合は直接労働省に対し組合規約の変更について照会したところ、同年三月十日附の労働局長からの労働協約の効力には影響ないものと解せられる旨の囘答を同月十五日に東京龜戸労政事務所長を通じて交付されたが、なお会社は依然として協約無効の主張を讓らなかつたので組合は遂に実力を以つて協約の有効を会社に認めさせるため同月十七日に鬪争宣言を発すると共に全国各支部に日曜出勤並びに時間外労働拒否及び波状ストを指令したので、前記の如く控訴組合はこの指令に基き同月二十五日、三十一日及び四月二十一日の三囘にわたる二十四時間ストを決行し、これと共に日曜出勤並びに時間外労働拒否の争議行為に出たものであることが疎明される。
而して成立に争のない乙第八号証、原審証人畑精一郎の証言及び同証言によりその成立を認め得る乙第四十五号証、同第四十六号証、原審証人藤田義一、原審及び当審証人今宮信雄の各証言を総合すれば、被控訴会社香春工場では囘転窯運転期間中に控訴組合から前記の如く三囘にわたる二十四時間スト、日曜出勤並びに時間外労働拒否更に熾烈な職場鬪争等を決行され、又三月二十六日及び四月二十三日の両日は各その翌日の日曜出勤を控訴組合において拒否したため同工場では短期間の窯の火入は操業上到底堪えられないことであつたので臨時休業するの已むなきに至り、これ等が原因して昭和二十三年十一月十二月には夫々一万瓲昭和二十四年一月二月には夫々八千瓲の生産を挙げて来たのに三月及び四月には囘転窯一基が故障のため他の一基のみの運転による生産とはいえ、三月には二千九百瓲四月には二千五百瓲に夫々低下するに至つたのであるが、セメント工業においてその中樞をなす囘転窯燒成作業は可及的長期にわたる連続運転を本質的に生命とし若し中途運転休止を行うことがあれば(イ)生産高の減少(ロ)品質の低下(ハ)燃料の損失(ニ)自家発生電力の激減(ホ)機械設備の損傷(ヘ)窯内張煉瓦の損傷(ト)生産原価の昂騰等事業経営上忍ぶことのできない重大な結果を招来するので被控訴会社香春工場としては控訴組合の前記争議行為により短期間内に屡々休転することは業務の運営上右のような重大な支障を来し囘復することのできない損害を被り、延いては被控訴会社の経営を破綻に陥れることとなるので被控訴会社はこれを防止するため已むなく右争議行為に対抗する手段として前記の如く臨時休業並びに作業所閉鎖を断行するに至つたものであることが疎明される。
然るに控訴組合は、右争議は被控訴会社が労働協約の有効なることを認めてこれを履行しさえすれば即時に解決し作業所閉鎖の必要は少しもなかつたのに強いて協約の失効を主張したために生じたもので作業所閉鎖は不法であり、被控訴会社の責に帰すべきものである。なお僅か三囘の二十四時間ストに対抗して長期間工場を閉鎖して賃金を支払わないということは、法益権衡の原則からしても失当であると主張するけれども前段認定の経過事実に徴し本件疎明の程度を以つては控訴組合の右主張はたやすく認容し難く却つて右認定の如き事情下においては、被控訴会社のなした作業所閉鎖の措置はその経営権に基き経営の破綻を防止する必要上已むを得ざるに出た正当の行為であると認めるのが相当である。
被控訴会社は、控訴組合の右争議行為は労働協約第六十一条の平和義務に違反すると主張するけれども被控訴会社は自ら労働協約の失効せることを主張しているのであるからかかる主張を自らなし得べき筋合ではない。
されば控訴組合の争議行為も、被控訴会社の作業所閉鎖も共に正当なものと認めざるを得ない、従つてこれがために各自の被つた損害はそれぞれ自らその責に任ずべく相手方に対してはこれが求償権を有しないものといわなければならない。
よつて組合専従者においても前記目録(三)記載の三月分及び四月分の金額の給与を受くべき権利あるものと認むべきも前記争議行為並びに作業所閉鎖のため五月分の給与はこれを受くる権利なきものというべきである。
従つて右の限度において右目録(三)の仮処分申請を許容した原判決は相当であつてこの点についての控訴は理由がない。
よつて民事訴訟法第三百八十三条第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 小野謙次郎 桑原国朝 森田直記)